「いつの頃から親父と同じ、しぐさで一人酒を飲む」
二十歳になって二ヵ月で親父を亡くした。ときどき無性にこう思うときがある。もう一度親父と酒を飲みたい、と。あの頃はどこか照れがあった。親父に酒をすすめられても、素直になれなかった。今ならどうだろう?やはり照れはあるかもしれない。親父とはそういうもの?しかし、しかし今なら素直に親父がすすめる酒に盃を出せるはず。できることなら、できることなら、もう一度親父と酒が飲みたい...。
 
勝山
仙台の大学時代、恐らく一番飲んだであろう酒。日本酒のいいところと嫌なところをとことん味わった酒でもある。寮に入っていたので、最初のうちはとことん飲まされた。独特の匂いがあり、一時はその瓶を見ただけで、気持ち悪くなったものだが、そのうちおいしさを味わう余裕ができるようになった。慣れたと言った方が正しいかもしれない。いずれにしてもこのお酒が私の体内に今でも流れていることは間違いない。 
「人間はね、身体の中に意志や理想では埋め切れない隙間を持っているものなんです。そこを埋めてくれる体液になにを持っているかで、その人の値打ちが決まるの。あなたの場合それはお酒だったんです。それは注ぎ込んでも注ぎ込んでも、すぐに乾いてしまう砂漠の水と同じものだったの。自分に本当に必要なものはなにか、よく考えてごらんなさい。」
志水辰夫『深夜ふたたび』
 
一の蔵
仙台の学生時代によく飲んだ宮城の酒。仲間で飲みに行くと最初はビール。次が勝山のお銚子かいいちこの梅割り。最後に一の蔵のにごり酒で締めたもの。居酒屋から寮までの帰り道、ぐてんぐてんに酔っ払って、よく寮歌を大声で歌いながら帰った。なかにはパトカーのナンバーを外して捕まってしまった先輩もいた(すぐ解放されたが)。寮では勝山よりもこちらの方が人気があった。 
たとえ幸運が、幸運だけが、最悪の事態をのがれさせてくれたとしても、人生はわれわれの多くをすりへらしてしまうのだ。才能ある若者たちがその才能を鈍らせ酒で浪費してしまう。意欲に燃えた娘たちも、子供を生み、中年に近づくにつれて、腰は太くなるが希望は小さくなる。
スコット・トゥロー『推定無罪』
 
マーテルのコルドンブルー
マーテルが好きだ。そう言ったらコルドンブルーをプレゼントされたことがあった。嬉しかった。でもすぐに飲みきってしまった。うまい酒をちびちび飲むほど、できた人間じゃあない。近くにあるアルコールを飲み干して生きて(死んで)行くのさ。
だがバーボンは最初の一口から攻撃的だった。喉を焼き焦がし、食道を掻きむしって胃に流れ込み、それからゆっくりと身体中の隅々の血管に火を付けて回った。
伊良草一輝「国道四号線」
 
サントリーオールド"だるま"
ワンショットグラスがおまけでついているのを見つけて久しぶりにオールドを買った。小さなグラスには、ちょうどSUNTRY WHISKYと書かれているところと、OLDと書かれているところがあって、OLDまで注ぐとワンフィンガー、SUNTRY WHISKYまで注ぐとツーフィンガーという風に工夫が凝らされている。オールドを自分で買った数は恐らくそれほど多くはない。記憶をたどっても思いつく瞬間がないから、もしかしたら初めてかもしれない。しかし鮮明に思い出せるある風景がある。子供時代、家にお客さんが来た時だったか、よく親父に「だるまを買ってきて」とお使いを頼まれたものだった。恋は遠い日の花火ではない、しかし、思い出はきっと記憶の中の花火に違いない。
 
サントリーホワイト
ビールを買いによった近くのコンビニで、グラスのおまけにつられてサントリーホワイトを買った。久しぶりのウィスキー。このウィスキーにも思い出がある。大学時代、同期の医学部の友人の部屋によくこの酒があった。あるとき深夜だというのに、隣の彼の部屋が騒がしい。音楽の音、何かが壊れる音。気になって様子を見に行くと、同じ同期で医学部の彼の友達が酒に酔って大暴れしたらしく、部屋が荒れ、レコードプレーヤーの蓋が壊れている。その後結局彼は昏睡状態に陥り、車で近くの病院まで運んだ。診断は急性アル中。普段はおとなしい彼だったが、きっと他人には想像もつかない爆発するだけの理由があったのだろう。久しぶりにホワイトを味わいながら、ほろ酔い気分で、なぜかこの夜の出来事に思いがはせた。
 
バランタイン
また一つ送別会を迎えた。同期が会社を辞め転職することになった。自分の目指す職場を求め、彼は潔く旅立とうとしていた。集まったのは全部で4人。入社して寮に入った最初の夜に、一つの部屋に集まって日本酒を酌み交わした仲間だ。飲みながら、まるで昨日のことのようにその夜の風景が浮かぶ。屈託なく冗談を言っては笑い合った。とても初めて会ったとは思えないほど意気投合した。しかし時間が経っても基本的にそのスタイルは変わらない。今回は終始笑顔の送別会だ。そのあと店を移し、バランタインのボトルを4人で一本空けた。家が近くでもあり、また飲もうと言って別れた。住む世界が変われば、飲む世界も変わる?いやいやきっとまたバランタインのバッカスがみんなを集めてくれるだろう。